コインチェック問題でなぜかメディアがどうしても理解していないのはウォレットとは何かである。

ウォレットの中身は前にも書いたように、仮想通貨そのもの(例えばXEM)ではない。ウォレットの中身は通貨の持ち主であることを証明するデジタル証明書(秘密鍵)である。分かり易く言えば、預金通帳の銀行印である。コインチェックに代表されるいくつかの仮想通貨業者が特に日本で展開しているビジネスモデルは、通帳はデジタル通帳としてコインチェックが持ち、これをWebから閲覧可能とする。ここまではいいが、さらに通貨を引き出す銀行印もコインチェックが預かるというビジネスモデルである。銀行預金なら、通帳と印鑑の両方を銀行の支店に預けないと思うが、Webウォレットという言葉で安心して顧客は預けてしまうのだろう。通帳と印鑑を失くすといけないから預かりますといわれて「はい」と銀行の担当者に預けてしまったのが被害者26万人だ。そしてその銀行印を返さないと言ってるのがコインチェックだ。

仮想通貨NEMの世界では、コインチェックが支店だとするとNEM財団(とその企業群)が本店で、他の仮想通貨取引所、例えばZaifが別な支店という関係と見れば分かりやすい。コインチェックを渋谷支店、NEM財団を単に本店、別な取引所を六本木支店と呼ぶことにする。NEM財団そのものはプラットフォーム提供法人だから本店という言い方は正確ではないが、こういう単純な絵で考えてみる。

ここで、渋谷支店にどろぼうが入って大量のお金が盗まれたとする。その現場検証とかで、渋谷支店は営業停止とする。その場合顧客は別な支店(もちろん本店でもいい)、例えば六本木支店に行ってお金を下ろせばいいだけだ。コインチェックに460億円あるのかと問題になっているが、顧客は別にコインチェックからXEMを返してもらわなくてもいいのだ。NEMという通貨機構全体が共有する預金通帳(ブロックチェーン)に顧客のXEM残高が書かれており、好きな支店(取引所)で下ろしていいのだ。もしもこれを他店が断ればNEM通貨機構全体の信用に関わる。26万人はNEM仮想通貨機構全体の顧客であり、コインチェックはその支店、もしくは、別な言い方をすれば代理店だ。

実際はそうならなかった。あなたが渋谷支店で預けた100万円は、渋谷支店で70万円相当のドルにしてお返しします。因みに今日の為替では120万円相当ですが。また、銀行印は返しませんので他支店では下ろせません。それと、返済日は未定です。こうサイトで、一方的に渋谷支店は顧客に通告したのだ。100万円が70万円相当のドルになる憲法違反レベルのおかしさは昨日書いた。今日問題にするのは、銀行印を返さないことだ。

通常、渋谷支店に泥棒が入ろうが顧客は関係ない。それで渋谷支店が営業してなければ、他の支店に行けばいいだけだ。これは仮想通貨の世界でも何ら変わらない。自分で銀行印(秘密鍵)を管理していれば、他の取引所に行けばいいだけだ。

だから、コインチェックが最初にやるべきことであり、今すぐにでも金融庁が指導してやらせるべきなのは、26万人のWebウォレットの中身である秘密鍵を顧客に返すことである。

なぜ、それをやらないのだろう。

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20180130-00081027/

が言うように、恐らくコインチェックには現金がない。同様に他の取引所にもないのかもしれない。または、取り付け騒ぎ、いわゆるバンクランになって、相場が暴落するのが怖いのかも知れない。つまり、この判断は、コインチェック一社だけでなく、他の取引所も含まれた判断でもある可能性もある。もっと言えば、仮想通貨業界全体の判断の可能性だ。

私は、これは間違っていると思う。例えば、コインチェックが http://corporate.coincheck.com/2018/01/28/30.html
で、「NEMの取扱高が国内外含め最も多いテックビューロ株式会社の運営する仮想通貨取引所Zaif」と紹介している取引所Zaifが、コインチェックにWebウォレットとして預けられた秘密鍵は今後うちが預かりますと言えばいいだけだ。

26万人のほとんどは、コインチェックから秘密鍵の入った電子データをそのまま受け取ってもどうしていいか分からないだろう。だから、ZaifはうちのWebページで顧客になれば、コインチェックのハードディスクからそのままコピーしてきますと案内して、実際にやって欲しい。そうすれば、彼らの顧客も増えるし、NEMプラットフォームに安心した人達は円に替えずにそのままXEMで持ち続けてバンクランは起きないだろう。

もちろん、5.23億XEM不正送金で実際に26万人の一人一人の元々の持つブロックチェーン上の所有権データと各個人の秘密鍵が結びついて不正送金がなされていたならば、26万人の仮想通貨がほんとうに盗まれたのだからこうはいかない。その可能性は低い。記録では、5.23億XEMが10回に分けてコインチェックから送金されている。これはサーバを乗っ取ったハッカーがサーバ内で本当に26万口座から一つの口座にまとめた可能性もあれば、もともと一つの口座だった可能性もある。前に書いたように取引所は一々ひとつひとつの取引をブロックチェーンに書き込むのではなく、サーバ上でまとめ、差額決算してからブロックチェーンに書き込むからだ。だから、サーバ上で26万口座をひとつにまとめてから10回に分けて送金された可能性もある。ただ、これは可能性が低い。なぜなら、そうならば、26万件の口座の残高が順番にたったひとつの口座に移動する様子がコインチェック社内のモニター上を延々と流れ続けるのだから、さすがに誰か気づくだろう。

従って、元々、コインチェック社の持つXEM口座と顧客の口座が、最初からまとめてひとつの口座として運用されてた可能性が高い。実際、上記記事で、山本一郎氏もこれを指摘している。ということは、ブロックチェーン上では、今でも26万人の顧客は、それぞれがXEMの所有者として残高が丸々記載されているはずである。ブロックチェーン上では、盗まれたのは、コインチェックの5.23億XEMであり、顧客26万人の5.23億XEMではない。だから、秘密鍵さえコインチェックから26万人に返されれば何の被害も起きないということだ。

手順として、例えば、NEM業界最大手とされるZeifがコインチェックから26万人の秘密鍵を(つまりWebウォレットを)、26万人の代理で代表して回収し、26万人を自らの顧客とすれば、何の被害も起きないのである。

ただ、もう一つの被害者にとって最悪のシナリオもある。これは元々26万人それぞれのアドレスがXEMの所有者としてブロックチェーンに記録されてない場合だ。(アドレスは256-bit Sha3とBase32アルゴリズムで公開鍵から生成される。一方向性関数経由なのでアドレスから公開鍵には戻らないので匿名でありながら、固有性が保証される。) つまり、コインチェックが顧客にXEMを売りながら、ブロックチェーンには所有者をコインチェックと書き込んでいた場合だ。山本一郎氏が言うような、コインチェックは先に顧客にXEMを売ってから仕入れるという商法をしていたとするならば、こちらの可能性は高い。まだ仕入れていない段階でブロックチェーンに書き込みが出来ないから当たり前である。この場合は顧客のWebウォレットに100万XEMと書かれていたとしても、ブロックチェーンに書かれている所有者はコインチェックとなる。もしそうであれば、金融庁は他社も含め、二度とないように徹底的に調査、強く指導して欲しい。この場合は、26万人の顧客は一度もXEMのオーナーになったことがないのだから、秘密鍵を取り戻しても他店に行ってもどうしようもない。

私はこのような最悪の状況でも、Zaifのような同業他社が、秘密鍵と26万人に対する債務を引き取るのが望ましいと考える。もちろん、この絵で一番損するのは、Zaifである。なぜなら、5.23億XEMに対する26万人のブロックチェーン上の権利は存在しないのに、5.23億XEMの支払い(引き渡し)義務が26万人に対して発生するからだ。

私はこれは担保されると考える。なぜなら、この方策では、実際には恐らく26万人は円に替えて引き落とさずに、そのままXEMを持つからだ。関係で言えば、現状、26万人は5.23億XEMの権利をコインチェックに貸しているのだが、これをZaifに一度貸して、Zaifがコインチェックに貸している形になるからだ。

今後、NEM財団がいうように盗まれた5.23億XEMが戻れば、それはZaifの預かり資産として戻り、一件落着。

もし戻らないことが確定すれば、Zaifは580億円だかの債権の差押えをコインチェックに対してすればいい。もしもコインチェックが返せない部分があれば、その部分または全部は所得税法51条の損失として除却損を出し、税務で回収すればいい。実際は、このような方策を取れば、XEM相場は上がり、運営会社株価は上がり、顧客の企業評価は上がり、間違いなく合算で金銭利益も出るはずだし、企業バリューとしては大きな価値上昇が得られるはずだ。そして何よりも仮想通貨全体が信用を取り戻す。もちろん、債権でコインチェックのエクイティを押さえて、100パーセント子会社にしたり、吸収合併してから喪失資産として損金で落とすことも出来るだろう。NEM顧客26万人を含むコインチェックが扱う全通貨の優良顧客の価値は580億円以上ある可能性もある。

私はZaif運営会社と何の面識もないが、コインチェックのサイトに、世界最大のNEM取り扱い会社とあるので、Zaifと例に上げたが、これは、充分に利益が出ていて、XEMを扱っている仮想通貨大手ならどこでも出来る方策だ。金融庁や関係者とも相談して、どこか、または複数社で協力して、是非やって欲しい。

そうでもしなければ、コインチェックの想定されているような実態がこれからどんどん明るみに出るはずであり、仮想通貨は日本で事実上終わるリスクがある。