「財政の崖」第2幕 米大統領に奥の手 1兆ドル硬貨発行 債務の制約回避

http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2013010802000088.html

引用

 【ワシントン=久留信一】オバマ米大統領が政府借り入れの法定上限(債務上限)をめぐる議会との交渉を回避する手段として、一兆ドル(約八十八兆円)のプラチナ硬貨発行を検討しているとの見方が広がっている。債務上限を、政府との財政赤字削減の交渉材料に利用しようとする野党共和党の動きを封じる狙いがある。
 記念硬貨発行を想定した連邦法の規定では、プラチナ硬貨は財務長官がデザインや額面を決定できる。政府が一兆ドル硬貨二枚を鋳造し、中央銀行の連邦準備制度理事会(FRB)に預ければ、二兆ドル分の歳出を決済することが可能だ。
 交渉回避の秘策として米紙ワシントン・ポストが提案。金融政策を担うFRBの権限を侵すとの指摘もあるが、財政運営を“人質”にした政治ゲームに批判的な国内世論は、硬貨発行を後押ししているようだ。
 二〇一一年夏には債務上限に対する共和党の強硬姿勢で、米国が債務不履行(デフォルト)の危機に直面。米国債が格下げに追い込まれたことがあり、経済専門家も「法的には問題ない」と支持する意見が増えている。
 大統領は昨年、政府が債務上限を自動的に引き上げられるようにする制度変更を議会に提案。五日のラジオ演説では「ツケを払うことで妥協するつもりはない」とあらためて強調し、「議会が上限引き上げを拒否すれば、世界経済は破滅の危機に陥る。危険なゲームを繰り返す余裕などない」と語った。

引用終わり

とある。硬貨を米財務省が発行してきた事実はアメリカ史を読む一つの鍵だ。金本位の時代のかつてのアメリカ大統領達はアメリカで豊富に採れる銀貨を発行して、世界の金を支配するヨーロッパの銀行家に対抗しては、暗殺されてきた歴史がある。

オバマ大統領はそれを1兆ドルプラチナ硬貨二枚でやろうとしている。ただ、かつての大統領達のように、FRBを通さずではなく、FRBに硬貨を一度預けるという工夫付きでだ。FRBを敵に回さない配慮だ。もちろん、FRBの通貨発行権を侵す前例は作らせないFRBが拒否する可能性が高いが、命がけとも言えるオバマ大統領の一手だ。この出来事の背景を知るには、アメリカの通貨発行権の歴史を知る必要がある。


アメリカ建国は、大統領と銀行家との間の通貨発行権の取り合いの歴史だ。

アメリカ独立宣言で有名な第三代アメリカ大統領トーマス・ジェファーソンは、以下を言ってる。

Jefferson "If the American people ever allow private banks to control the issue of their currency, first by inflation, then by deflation, the banks and the corporations which grow up around them will deprive the people of all property until their children wake up homeless on the continent their fathers conquered."

「民間銀行に通貨発行を支配されると、まずインフレ、そしてデフレが引き起こされ、我々の子供達がホームレスになるまで、アメリカの富の全てが、銀行と銀行が儲けさせる企業群に略奪され続けるだろう。」

建国の頃から年表的にみてみよう。

1816 Second Bank of United States が、資本金米政府20% に対して80%をヨーロッパの銀行家の出資で設立されたのが、正式にアメリカの通貨発行権がヨーロッパの個人銀行家のものになった最初。

1831 ジャクソン大統領が、銀行がマネーを縮小させ不況を引き起こしていると批判
1834 米国議会が銀行調査委員会を設立。銀行は調査を拒否
1835 ジャクソン大統領狙撃されるが一命をとりとめる
1836 Second bank of US の銀行業務更新を米政府が拒否
以後77年間アメリカには中央銀行がない状態が続く

1861 南北戦争が勃発。ドイツのビスマルクは銀行家が裏で糸を引いて戦争が引き起こされたと批判
1862,1863 リンカーンが450億ドルの米国政府ドル(グリーンバックス)を中央銀行を通さずに発行。1996年までグリーンバックスは流通。
1864 リンカーンが、"banks more selfish than buarucracy" と発言。
1865 リンカーン狙撃され死亡。

その後、銀行はマネーサプライを徹底的に縮小
1866年には一人あたり50.46ドルであったマネーサプライが1886年には6.67ドルに

この間、1876年に、 ガーフィールド大統領が、中央銀行を通さずシルバードル、銀硬貨を発行。
ガーフィールド大統領はその後射殺される。

1907 証券暴落
1913 12月22日、米議会でクリスマス休暇中に、FRB法が多くの議員不在のまま、強行採決、以後、アメリカの通貨発行権はFRBに。
因みに、FRBは、名前は連邦準備銀行であるが、民間銀行であり、アメリカ政府は株式を一株も持っていない。

1963年6月 ケネディ大統領、財務省ドル発行
大統領行政命令第11110号を発令。FRBを通さず、Federal Reserve Bankと札面に印刷されるところに、United States Note(連邦政府券)と刻印された財務省ドルを42億ドル発行。
1963年11月 ケネディ米大統領射殺される。
ケネディ財務省ドルは全額回収され、その後、アメリカの中高の歴史授業では、ケネディ大統領がFRBを通さず財務省ドルを発行した事実さえ教えられていない。

2013 オバマ大統領、FRBに一度預け、引き出す形で、1兆ドル財務省プラチナ硬貨二枚を発行か?


イギリス革命、アメリカ独立戦争、アメリカ南北戦争、ロシア革命、第一次、第二次世界大戦と、戦争が起きる度に裏にヨーロッパの銀行家がいるとされてきたのは、戦争が起きれば、当事国の法貨紙幣は紙切れ同然となり、戦費調達に金本位の銀行家から資金を借りねばならないから。だから、通貨発行権を失う度に、銀行家は政府から通貨発行権を取り戻すために戦争を起こして来たとされる。

もちろん、私たちの通常の論理は通貨発行権は国家にあると考えるのだが、ヨーロッパの銀行家に言わせると、それは、死に値する勘違いということになる。オバマ大統領を見習って、安倍さんも、100兆円プラチナ硬貨二枚を発行する勇気はあるかな?

当のワシントンポスト http://www.washingtonpost.com/blogs/wonkblog/post/can-a-giant-platinum-coin-save-our-credit/2011/07/11/gIQA2VAPjI_blog.html
によると、金貨、銀貨、銅貨には、これまでの歴史で、財務省による通貨供給量の上限が定められてるけど、プラチナ硬貨には、上限が定められてないから、合法という論理らしい。FRBが金本位制の時代につくった縛りだから、グラム4700円程度のプラチナコイン一枚が80兆円は想定されてなかった法の抜け穴ということだ。発行されたら世界のドロボーが狙いそう。


政府と銀行家の通貨発行権をめぐる戦いは、『経済大国なのになぜ貧しいのか?』http://amzn.to/ZtZ4AL や、『現代版 魔女の鉄槌』http://amzn.to/13jZNbB などに書いた。

PS もちろん、IMF, World Bank, BISといった組織は、ヨーロッパ銀行家の支配下にあることは言うまでもない。また、ジェファーソンのいう、「銀行と銀行が儲けさせる企業群」が、アメリカ内外でロビイストを動かし、新自由主義を進めてきた事実も忘れてはいけない。日本で言えば、郵政民営化や最近で言えばTPP推進です。日本人の金融資産の支配と日本の通貨発行権の支配が彼らの視野にある。